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2013年8月10日土曜日

証券ディーラー「プロの視点」(8/10)

◆日銀の金融政策決定会合で、量的・質的金融緩和は現状維持!日銀は金融政策決定会合で、4月に導入した市場に供給する資金を2年で2倍にする「量的・質的金融緩和」の継続を全員一致で決めた。景気の基調判断は「緩やかに回復しつつある」で据え置いた。景気判断は7月の決定会合まで、7ヶ月連続で引き上げられた。しかし、6月の鉱工業生産指数が5ヶ月ぶりにマイナスとなるなど、一部の経済指標に景気拡大への力強さが足りないとみて、7月の判断を維持することにした。
日銀は景気の基調判断を前月まで7ヶ月連続で上方修正してきたが、今回は据え置いた。ただ個別項目では物価関連の表現を1段階引き上げた。消費者物価指数の先行きについて「プラス幅を次第に拡大していくとみられる」と上方修正。予想物価上昇率の現状判断も「全体として上昇しているとみられる」と表現を強めた。
金融政策決定会合では木内登英審議委員が量的・質的金融緩和を継続する期間を「2年程度の集中対応措置と位置付ける」と明示するよう提案したが、反対多数で否決された。
政策決定会合後の会見で、日銀の黒田総裁は金融市場に大きなショックが発生し、物価目標の達成が危うくなった場合は「適切な政策」を行うと述べ、追加緩和を実施する姿勢を示唆した。消費税が予定通り2段階で引き上げられても景気は「前向きな循環が維持される」として、「増税と脱デフレは両立する」と明言した。日銀が大規模な国債買入れを進める中で金利が急上昇しないよう、政府には財政健全化の着実な推進を求めた。
◆2段階の消費増税は景気を腰折れさせるか? 追加の金融緩和も視野に!政府内では2段階の消費増税が景気を腰折れさせる懸念があるとして、先送りや増税幅の改定などが議論されている。黒田総裁は 予定通り2段階の増税が実施されても「景気の前向きの循環は維持され、基調的に潜在成長率を上回った成長が可能」とし、「脱デフレと消費増税は両立する」との見通しを示した。「必要があれば(金融政策の)調整はもちろん行う」として、景気が悪化し物価目標の達成が危うくなった場合、追加の金融緩和を実施する考えを示した。
黒田総裁は、消費税増税後の景気の落ち込みの可能性について「1997年に(消費税を)2%引き上げた際も直後の四半期はマイナス成長だったが、そのあとはプラスになった」として影響は短期間にとどまるとの見方を示した。そのうえで増税後に景気が落ち込んだ場合には「(物価上昇の)目標達成のために、必要かつ十分な金融緩和をする。必要があれば上下双方向の調整はもちろん行う」と強調した。
仮に消費増税が現行案から変更された場合、「中央銀行としてどの(増税)方法がよいか言える立場でない」とした上で、「2%目標実現に必要な緩和を行う立場自体には変更がなく、日銀として粛々と金融緩和を続ける」と述べるにとどめた。
その上で黒田総裁はあくまで一般論として「政府債務は極めて高い水準にあり財政健全改革は極めて重要、着実な推進を強く期待する」、「中長期的な財政健全化が政府で行われることになると思う」と述べ、消費税引き上げを見送った場合の影響について、「財政規律の緩みなどの懸念が長期金利の上昇に跳ね返ると、金融緩和の効果は減殺され、間接的に金融緩和の効果に悪影響を及ぼす」と、指摘。消費税増税の見送り論を牽制した。
◆脱デフレと消費増税は両立できる?景気回復を失速させないためには?今回の黒田総裁の発言の焦点は、「脱デフレと消費増税は両立できる」と述べ、消費増税が予定通り実施されても、4月に導入した「異次元」緩和の効果でデフレから脱却できるとの自信を示したことにある。黒田総裁は、来年4月に実施予定の消費税増税をめぐり、日本経済に悪影響を及ぼすとして政府内から見直し論が出ていることについて、「駆け込み需要とその反動減はあるが、景気の前向きな循環は続く」とし、影響は限定的との認識を示した。
日銀は「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、消費増税が予定通り実施されることを織り込み、実質国内総生産(GDP)の前年度比上昇率を2013年度が2.8%、2014年度が1.3%、2015年度が1.5%と試算している。黒田総裁は「日銀の金融緩和と政府の財政健全化は関連している」と強調。政府の財政再建が失速すれば、景気回復のシナリオが頓挫するとの危機感を示した。
8日に政府が示した中期財政計画について、黒田総裁は「かなりしっかりしたもの」と評価する一方、「政府の公的債務残高が極めて高いことを踏まえると、構造改革は重要だ」とも述べ、計画の実行を促した。
8日に閣議了解された中期財政計画と平成26年度予算の概算要求基準。この中期財政計画の中で内閣府の試算では、2020年度の基礎的財政収支の黒字化には、12兆4000億円不足することが明らかになった。これに対し、麻生財務相は会見で、「経済を縮小させて基礎的財政収支をバランスさせるつもりはない。経済を成長させてバランスをとる」とし、成長→税収増の好循環をつくる姿勢を強調した。だが、消費税率引き上げにあたっては、財政健全化の道筋を分かりやすく国民に示すことが不可欠だ。
◆アベノミクスの成長戦略と財政再建の両立は可能か?内閣府の試算は、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の成長戦略が経済規模を拡大させ、税収増を軸にして、財政再建を果たすシナリオが極めて困難であることが明らかになっている。試算の前提は、アベノミクスが想定通りに進展すれば、2010年度から2020年度の10年間平均の成長率が、実質で2%、名目で3%程度確保できるというものだ。試算は、消費税についても、2014年4月に8%、2015年10月に10%にそれぞれ消費税増税法の規定通り引き上げることを盛り込んでいる。
しかし、2015年度については、GDPに対する基礎的財政収支の赤字比率の半減目標は達成できる。だが、32年度は、GDP比で2%、金額にして12兆4000億円の赤字が残り、黒字化目標は果たせないことになる。政府は、「現状では2015年度までの目標達成に全力を尽す」(甘利経済再生・経済財政担当相)としか説明できていない。
日銀と政府の読みの甘さを指摘する声もある。日本経済研究センターが8日に、民間エコノミスト40人の予測を集計した8月のESPフォーキャスト調査を発表している。それによると、4〜6月期の実質GDP成長率は年率換算で前期比プラス3.43%と、1〜3月期実績のプラス4.1%に続く高成長を見込む。堅調な消費が続くほか、円安で輸出が持ち直す見込み。このシナリオ通りに推移するとすれば、秋の政府の消費増税判断の追い風になりそうだ。
ただ、消費者物価の前年比上昇率は、7〜9月から上昇に転じる見通しで2013年度の0.43%の後、消費増税後の2014年度は2.73%としているが、2015年度については日銀とフォーキャスト調査でかなり異なっている。日銀では消費増税の影響を除いて1.9%との見通しを発表しているものの、フォーキャスト調査では0.97%と見込んでおり、消費増税後の経済指標に関しては、政府・日銀と民間のエコノミストの間に差異が生まれている。
4〜6月期のGDP成長率は、内閣府が8月12日に一次速報値を、9月9日に二次速報値を発表する。政府はこうした指標を点検したうえで、9月中にも増税の是非を決める方針だ。
◆中期財政計画では2016年以降の具体的な施策は盛り込まれず1%分の増税で年間約2兆7000億円の税収を生む消費税率の引き上げがなければ当然、現時点で達成可能としている2015年度の健全化目標も疑わしくなるといった声も聞かれる。
財政健全化目標達成に向けた取り組みを示す中期財政計画では、2015年度までに国と地方を合わせたプライマリーバランスの赤字幅を2010年度比で半減させる目標達成へ、新規国債発行額は前年度を上回らないように最大限努力する、などとしたが、2020年度黒字化目標に向けた2016年度以降の具体的な施策などは盛り込まれおらず、財政健全化への道筋は描き切れていない。
特に問題なのは、毎年1兆円規模の自然増が見込まれる社会保障費削減の具体策が見送られたことだろう。現状では、国民の痛みを伴う増税に見合う歳出削減が不十分と言わざるを得ない。消費税率引き上げの最終判断後に示される計画では、黒字化の青写真を明確に描く必要がある。
2015年度の基礎的財政赤字半減目標達成には国の一般会計ベースで8兆円程度の収支改善が必要で、消費増税を予定通り実施しない場合には目標達成は難しい。増税を実施しない場合でも目標達成は可能かとの質問に、甘利担当相は「デフレ脱却をし経済成長と財政再建両立のベストの道を探る」と繰り返し、増税判断を留保した。

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